Agaruneyu の生物と人類文明
惑星 Agaruneyu に人類が誕生する迄
惑星アーガルネユ Agaruneyu は、第二世代 G 型恆星ユールの周圍の、長半徑約 1.5 億 km の橢圓軌道を、約 9000 時閒掛けて巡る、地球に良く似た惑星である。 惑星アーガルネユには、各種元素が地球とほゞ同じ樣な比率で存在してゐた。亦、恆星からの距離が適切である事、小惑星の衝突確率を下げる樣に働く大型ガス惑星が存在した事等、生命誕生に適した特徴を多く持つ惑星だった。
惑星アーガルネユには、約 30 億年前に最初の生命が誕生した。其以降の經過は、一種〳〵ごとに見れば、地球の生命とは異なる物であったが、巨視的な進化傾向は地球の物と極めて良く似てゐた。軈て眞核細胞生物が生まれ、多細胞生物が生まれ、外骨骼を持った生物や節足動物の樣な生物が生まれ、脊椎動物が生まれ、魚類の樣な生物が生まれ、兩棲類の樣な生物が生まれ、爬蟲類の樣な生物が生まれた。其の後、爬蟲類の樣な生物から龍類が現れ、彼等は溫暖な氣候の下、大いに繁榮した。この樣にアーガルネユに於ける生命の進化は地球のものと似過ぎてゐる程似てゐるのであるが、その理由は解明されてゐない。
地球に於いては、白堊期末の 6500 萬年前頃に、恐龍類は、分岐進化した鳥類を除いて絕滅して了ったが、惑星アーガルネユでは(隕石衝突による急激な寒冷化が起こらなかった事もあって)龍類は完全には絕滅しなかった。氣候は、極緩やかに寒冷化を始めた。其と步調を合はせるかの樣に、龍類はゆっくりと小型化し、亦、ゆっくりと其の數を減らし始めた。同樣に、龍類の中から羽毛を持つ物が現れ、遂には翼を持つに到った物も現れた。鳥類は、龍類のニッチをも少しづゝ奪ひ始めた。
かくして、龍類と、彼等から分岐進化した大型の鳥類の共存する時代が始まった。
鳥類は、其の後大いに繁榮し、樣々な姿に擴散進化した。翼を發達させ、空を飛ぶ事が出來る樣に成った物、水中生活に適應した物、極地域での生活に適應した物等が現れた。
因みに、ユーラル語では、陸上の鳥類の內、空を飛ばない大型の物をゲーツ gEqu、空を飛ぶ物をミト mIto と呼んで區別する。水中生活に適應した鳥類の中には、普段は陸上で暮らし、餌を取る時等に水中を泳ぐ物、普段は水中で暮らし、繁殖期等に陸 に上がる物、一生を水中で過す物がある。一生を水中で過す鳥類は重力の軛から解放された爲に大型化し、體長數十 m に及ぶ物も存在する。 鳥類と龍類が惑星アーガルネユの殆どの地域を闊歩してゐた頃、哺乳類は鼠の樣な物しかゐなかつた。以降、地形等を大きく簡略化して記述するが、或る時、其迄は厚い氷に覆はれ、生物の殆ど存在しない地域であつた孤南大陸が北上を開始した。少しづゝ溫暖に成つて行く孤南大陸には、此の鼠の樣な哺乳類が最初に上陸し、彼等の適應放散が始まつた。彼等から分岐進化して、小型の羊の樣な物や、猫の樣な物が現れた。後に、猿の樣な物が分岐進化し、彼等の進化の末に、アーガルネユに於ける人類の直接の祖先が誕生した。
地球の「人類」に當たる種が生まれたのは惑星アーガルネユの南半球に位置する孤南大陸である。孤南大陸は周りを海で圍まれ、今でこそ西方大陸に近接してゐるものの一億年前には遙か南の大洋の中に有り、正しく孤立した大陸であった。其の頃惑星アーガルネユの殆どの地域を闊步してゐたのは鳥類と龍類であり、哺乳類は鼠の樣な見た目の物が主に生息してゐた。8000 萬年前頃からは全惑星的な龍類の衰頹と鳥類の適應放散が始まったが、孤南大陸ではいささか異なる進化が起こり、鳥類ではなく哺 乳類の適應放散が始まった。軈て小型の羊の樣な物や、貓の樣な物が現れた。後に、猿の樣な物が分岐進化し、彼等の進化の末に、アーガルネユに於ける人類の直接の祖先が誕生した。
アーガルネユに現れた人類は、孤南大陸の生物聯鎖の頂點に立った。其の後、北上を續けて來た孤南大陸は、西方大陸と近接し、此處に人類は、鳥類と龍類に支配された世界へと進出を開始する事に成ったのだった。
人類は、其の智慧で鳥類と龍類に打ち克ち、全世界に擴散した。
文明の誕生と發展
以降、年代を大きく簡略化して記述する。人類は、長い時閒を掛けて(地質學的に謂へばアッと言ふ閒に)、全世界の諸大陸に住む樣に成った。各地の人類は、集團で狩獵や採集を行って生活してゐたが、帝國曆紀元前 5000 年頃に成ると、大河の流域を始めとする地域に人々が集住し、植物の種を植ゑたり、動物を飼育したりし始めた。農業革命の始まりである。
農耕の開始によって、人類の數は急速に增加し、各地に都市國家が形成され、都市王が現れる樣に成った。帝國曆紀元前 3000 年頃から、東方兩大陸は靑銅器時代に入った。同じ頃、文字が發明され、貿易や記錄に用ゐられる樣に成った。
東方兩大陸に於いて、最初に鐵器を用ゐたのは、北半大陸の北の果てに住んでゐた、「白き民」だったと考へられてゐる。ユーラル語ではスィファルオルガ sifarUoruga、自らはツェーン・ツィパ QaiN-QiPa と稱した。彼等は、高度な冶金技術を有し、 亦、地下に穴を掘って其の中に都市を築く奇習で知られた民族である。彼等は帝國曆紀元前 2000 年頃には、旣に製鐵技術を發明し、鐵の劍、斧、圓匙、鶴嘴、鎧等を實用化してゐた。彼等の製鐵技術は祕匿され、其の製品だけが僅かに他國に輸出されてゐたが、帝國曆紀元前 1000 年頃に成ると、其の祕密は他の民族の知る所と成り、東方兩大陸の主要な諸國に於いても、鐵器が製產される樣に成った。 鐵器を製產する技術を持ってゐる事は、其の技術を持ってゐない民族に取っては大きな脅威であった。鐵器を手に入れた都市國家が、他の都市國家を支配下に組み入れて行く事に因って、東方兩大陸に幾つもの領域國家が成立した。
カトリルイシス國は、東方兩大陸に挾まれた內海に浮ぶ、中央諸島を統一した國家で、高度に發達した天文學と土木技術を持ってゐた。亦、強力な陸海軍を有し、東方兩大陸の多くの國々と外交關係を結んでゐた。
イリアの生きた時代の生態系と食文化
ハミュルファリア・イリアの生きてゐた時代(帝國曆元年前後)は、人類が農耕と牧畜を開始してから數千年が經過した鐵器時代であった。氣候は寒冷化の最中にあり、龍類は緩やかな衰頹の途上にあった。當時、人類は、多くの動物を家畜として飼育し、此を使役してゐた。
イリア達の住む東方兩大陸では、大型の鳥類を家畜化し、騎乘したり、荷車を牽かせたり、鋤を牽かせたりしてゐた。龍類は、どれも鷄を二囘り程大きくした樣な物しかゐなかったので、專ら肉乃至卵を食用に供する爲に飼育されてゐた。
一方、新北大陸の諸國には、比較的體の大きな龍類が生存してをり、人々は、此に騎乘してゐた。
海中、淡水中には、多くの種類の魚類が生息してゐた。魚は世界各地で日常的に食べられてゐた。イリア達の時代には輸送網が發達してゐなかったので、魚類の肉は(鳥類、龍類の等の肉も)乾燥させたり、鹽漬にしたりして、保存食に加工してから輸送してゐた。
カトリルイシス國では、澱粉質を攝る爲の食品として、イーフェ Ife の果實を茹でるか蒸すかした物が食べられてゐた。イーフェは、多年生の草本植物で、稻や麥に良く似てゐる。イーフェの果實は、地球の大豆程の大きさで、粒の儘炊いて食べたが、 碾いて粉にした物を練って醱酵させ、燒いてパン狀の食品を作る事もあり、祝ひ事の際等、特別な時に食べたらしい。 タールアカナ國では、或る種の芋を澱粉源としてゐた。新北大陸の諸國では、より大型の草本植物の實を粉にして練って燒いた物を食べてゐた。此の植物は、玉蜀黍を大きくした樣な姿をしてゐる。
地球でも各地に見られる樣に、アーガルネユに於いても、所謂「蟲」を食用に供する文化が存在する。
中でも、惑星上で廣く食べられてゐるのが、社會性を持つ節足動物の一種エードゥ Edu である。エードゥは、數百匹の集團で、木々の閒に絲を張って大きな巢を作り、其處で生活する。體長は普通の成蟲で凡そ 7cm 程。若い成蟲を採集して茹で、其の儘食べたり、茹でた物を干して保存食にしたり、茹でて干して粉末狀にして固めた團子を攜行食にする。 終りに
本來は、此の後に、アーガルネユの精神文化と生態系に就いて記述しようと思つてゐたのですが、此等の内容に就いては、また追々明らかにして行く積もりです。神話に就いては今回は置き、より身近なテーマである所の食生活に就いてのみ記述することにしました。異國の食生活に就いて聽かうとすると、「主食は何か」「副食は何か」等と云ふ事が氣に掛かる人がゐるかと思ひますが、此の主食・副食と云ふ槪念が浮かぶ事߭自體、日本獨特の食文化に染まりきつてゐる證左なのです。自文化から離れて異文化に就いて知ると云ふのは、大變な事なのです。